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ノモア

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「人口ボーナス期」で語るのは無理がある

社会 仕事


小室淑恵「人口構造から見るゲー­ムチェンジの必要性」―人口ボーナス期から人口オーナス期へ | 日刊読むラジオ

 

こちらの話に対して、わりと肯定的な意見が多いですが、ん?という所が結構ある気がします。

 

「人口ボーナス期」の考え方

2つの側面があると思いますが、1つは「福祉予算」です。

年少人口と老人人口をあわせた「従属人口」が「生産人口」の半分以下であると、社会福祉費にまわす国費などを経済成長に傾けることができるので、経済成長しやすくなる。

 

もう1つは「生産性」です。

輸出による経済成長期には、生産者人口が多いほど輸出量を増やせるので経済成長しやすくなる。また、自給率が高い場合は人口増加に伴って内需が拡大する。

 

この2つが「人口ボーナス期」を考える上で重要になるのではないかと思います。

 

日本の状況

小室さん曰く、日本の「人口ボーナス期」は70年代で、現在は「人口オーナス期」だそうですが、1970年-7212万人、2013年-7901万人、と生産人口は増えています。

 

それでいて現在が「人口オーナス期」であるとすれば、生産人口が少ないからではなく、従属人口割合が多くなっているということでしょうが、

 

年齢(5歳階級),男女別人口 

統計からみた我が国の高齢者(65 歳以上)

平成26年12月時点の人口割合に、高齢者の就業数を加えて計算すると、

年少人口-12.8%、生産人口-66%、高齢者-21.2%となります。

少し欠けますが、まだ従属人口の倍近く労働人口がいることになります。

 

では今が「人口ボーナス期」かというと、記事にあるような「世界中から仕事が舞い込んでくる」状態にはありません。

 

外務省: 1人あたりの国民総所得(GNI)の多い国

日本の主要輸出国はアメリカと中国ですが、中国へは部品の輸出が多いです。

製品輸出が多いアメリカと比較すると、

<所得平均>

1970年:日本-100万円、アメリカ-143万円

2013年:日本-403万円、アメリカ-470万円

相対的に日本の人件費が激的に上がっているわけでもありません。

人件費も相対的に上がっておらず、生産人口も多いのに、景気の良い状況にはなっていないわけです。

 

なぜなら、人口の増減とは関係のない部分で景気が動いているからです。

実際に売買する物の値段や為替の方が、経済に直接的な影響を与えます。

 

受注の冷え込みは、世界経済の動向や新興国の躍進によるものであり、内需の落ち込みは、産業の空洞化などによるものです。

小室さんのいう「高学歴化による人件費高騰」も、因果ゼロではないと思いますが、高学歴化は経済成長の結果であり、変化の源ではないと思います。

 

たとえば、輸出によって経済成長をしている新興国であれば、人口を増やすことで経済成長していくかもしれません。

しかし、日本のように輸入依存が強い先進国では、人口を増やしても生産業者が増えないので、年齢に関わらず消費者人口が増えて社会負担になってしまいます。

失業率が高いわけではありませんが、低賃金で働く人が多いと税収が減るので、結果的に負担が大きくなります。

 

「人口ボーナス」「人口オーナス」の概念は、中国のような国をみる時には指針になるかもしれませんが、日本のような国をみるには適さない概念ではないかと思います。

 

子持ち女性の労働環境

「人口オーナス期」に転じた理由についても、

●長時間労働環境を改善しなかったことで2人目以降を産めなかった

●待機ゼロ政策の遅れで出産後の女性が社会復帰できなかった

としていますが、非常に無理があると思います。

 

90年代には「人口オーナス期」になったとご自身で言っていますが、90年以降の生産人口に関わってくる70年代には「第二次ベビーブーム」が起きています。

その頃に生まれた団塊ジュニア世代は、現在40代の働き盛りになっています。

生産人口のど真ん中にいて、だから現在は生産人口数も多いのです。

 

政府が取り組まなくても、生産人口は増えていることになります。

 

定義からいえば、「人口ボーナス期」は子供も老人も少なく、「人口オーナス期」は逆の状態になります。

ベビーブームが起こったということは、70年代は「人口オーナス期」であり、団塊世代が年金受給を開始する90年代~最近までが「人口ボーナス期」でなければ辻褄が合いませんが、記事では全く逆のことを言っています。

 

人口割合の推移をみてみると、

1965年-32%:68%(従属:生産)、

1970年-31%:69%、1975年-32%:68%、1980年-33%:67%、

1995年-31%:69%、2013年-38%:62%、といった具合に推移します。

 

近年で割合が「人口オーナス期」に転じていますが、先ほど書いたように、高齢労働者の割合を加味すると、2013年-34%:66%、になります。

これをみると、全体的に大きく変化していないことが分かります。

 

70年代後半~80年代の従属人口増加は、子供が増えたことも要因のひとつです。

その頃に産まれた人達が生産人口となった90年代には1970年の割合に戻っています。

子持ち女性の労働環境を整えて、子供を産むことが容易くなれば「人口オーナス期」を遅らせることができるわけではないのです。

 

政府が本気で待機ゼロ政策に挑まなかったから、

「短期の労働力も長期の労働力も増やせず、人口オーナス期が加速した」

と言っていますが、ここまでの労働力割合は大して変わっておらず、オーナス要因は従属人口の増加だろうと思います。

そんな従属人口の多い時に出生数が増えれば更にオーナスは加速します。

 

日本の高齢者は7割が働いていて、主要国の中で高齢者の就業率が一番高いです。

65歳以上で半分、75歳以上でも4人に1人が働いています。

自営業が多いため、90年代だって働いていたでしょうし、実質的に1970年の「人口ボーナス期」とあまり割合が変わりません。

 

おそらく、小室さんの話が支離滅裂なのは「従属人口」に子供を含めていないからです。

 

この概念では、子供も社会負担に含めなくてはいけません。

小室さんが言いたい「子持ち女性の社会進出環境の改善」にはそぐわないわけです。

しかし、より多くの層から共感を得たいと考えているのか、無理やり人口論に結び付けてしまっています。

 

そもそも、日本の少子化は晩婚化によるものです。

既婚者の大半が2人程度の子供を育てており、2人目以降の断念は、時間やお金の問題だけではなく、物理的制約など複合的な理由によります。

 

有配偶者出生数は、1972年-2.20人です。

2002年-2.23人、2005年-2.09人、2010年-1.96人と推移しています。

 

増減がありながら結果的に減っていますが、これも小さな変動です。

この変動は晩婚化やそれに伴う高齢出産化が影響していと思われます。

70年代だから5人も6人も子供を産んでいたわけではありません。

1940年には既に4.27人となっており、1962年には2.83人になっています。

 

経済状況や社会状況に関わらず、既婚者が産む子供の数はあまり変動しません。

それどころか、今よりも女性の労働環境が悪かった70年代にはベビーブームが起こっています。

出生数と労働環境は直接的な関係にないということです。

「人口オーナス期」を、待機児童政策などに結び付けて考えるのは無理があります。

 

一方で、1954年~1973年の経済成長期の方が平均労働時間は長く、その頃より男性の育児参加率も増えましたが、現代の方がやや出生数は落ちています。

長時間労働スタイルが少子化に影響しているとする根拠も足りないと思います。

 

現在のオーナスは晩婚化と過去のベビーブームが引き金となって起こっているので、これを理解できないと「年金問題」も理解できないのではないかと思います。

 

改革案を煮詰めてほしい

着地点には賛同できますので、小室さんの話を全否定するわけではありません。

 

でもそれは、人口論とは関係のない労働構造改革の必要性に対する賛同です。

この概念自体は、日本に適応するのが難しいものではないかと思います。

キャッチーではありますが、論拠としてはマイナスの印象を与えます。

 

では、改革案がどうかというと、それも少し煮詰めてほしいなと思いました。

 

たとえば、「男性の介護休暇需要」の件も、

休暇申請なのに短時間労働で解決するのかね?という疑問が生まれます。

 

短時間労働であれば、ヘルパーさん等に半日だけ介護をお願いすることが可能になるのかもしれませんね。

でも、半日なら頼めるけど全日は頼めない理由とは何でしょうか。

 

もし金銭的理由なら賃金が下がると困りますよね。

ヘルパー不足やフル介護希望なら、短時間労働では解決しません。 

夫婦で半々お世話するには適していますが、生涯未婚率はあがっています。

1人で介護にあたる人も、本当に短時間労働の方が得なのでしょうか。

 

有休取得がしやすくなることで解決する人にとっては、従来の長時間労働・高賃金状態の方が良いかもしれませんよね。

 

また、短時間労働だと企業側は雇用を2倍に増やさなくてはいけません。

保険料の負担割合を変えないと就業先がなくなってしまいますので、個人の負担割合を増やすしかありません。

給与は更に減りますが、それで介護は大丈夫でしょうか?

低費用でヘルパーを頼んだり、医療費を安くするためには、税金をあげなくてはいけませんよ。

 

「女性特有のネガティブな要因だけではない」

とは言っていますが、身を削るところまでは言及していませんね。

短時間労働になるということは、セルフコントロールできるようになるということなので、体制を整える際は、育児支援予算を削減しなくてはいけません。

高齢者への社会保障を削れといってしまうと、「男性の介護休暇需要」の話は吹っ飛んでしまいますからね。

この状態がまさに「オーナス」です。

 

痛みを伴う改革ですが、本当に女性達はそれで良いのでしょうか。

育児支援が削られた場合、子持ちで離婚したら今より大変になりますよね。

 

小室さんの話がある種の理想に感じるのは、細かな部分を語っていないからです。

 

実際にやるとなると、労働単価が下がって貧困層が増えるのに、福祉施設の需要は減らないため、社会負担は増幅します。

消費税をあげて補うことになると思いますが、労働単価を下げるとなると、かなりの税率でないと制度運用できません。

独身者や低所得高齢者は、より厳しい生活を強いられることになります。

収入が減って、税金は上がる、というシナリオです。

 

そうなった時、ダメージが少なめで済むのは労働者が2人いる既婚世帯くらいです。

中でも得といえるほど恩恵を受けることができるのは、共働きの子持ち世帯です。

若者単身者は税金があがっても保障対象から外れてしまいますし、労働者が1人しかいない世帯はトータルすると楽にはなりません。

もっといえば、子供達は成長すれば単身者層の仲間入りするので、この改革で明確に救われるのは、共働きをする子持ち世帯の「親」です。

 

そして、現在30~40代の親世代というのは、「年金問題」の本丸です。

年金問題というのは、現在の高齢者の問題ではなく、今の親世代が年金受給する時に生産者人口が不足して年金財源が厳しくなるというものです。

25年後の25年間あたりで起こります。

 

そんな危機的未来がみえていて、未婚率の上昇、高齢化、婚外子やシングル家庭の増加が起こっているなか、今の親世代を働きやすくするためだけに全体構造を変えるのは大変リスクがあります。

 

公的介護需要が増加していくこと、女性が担ってきた負担、男性主導の経済社会体制が作ってきた様々な人権問題を考えれば、女性が社会に参画していく意義は大きいと思います。

短時間労働化や転勤問題なども、それ自体は悪くない考え方だと思います。

しかし改革案として不十分であるため、現実的ではありません。

今の提案内容では、ポジショントークととられても仕方がないくらい論拠が不足しているので、もう少し細かな部分を詰めていけば議論対象になるのかなと思います。