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「センターラインはみ出し事故」の判決文を読んで

 

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痛いニュース(ノ∀`) : センターラインをはみ出し対向車と衝突、同乗者死亡→対向車側に4000万円の賠償命令…福井地裁 - ライブドアブログ

 

はみ出した車に衝突されたのに「4000万円」の賠償責任、判決は「理不尽」なのか? (弁護士ドットコム) - Yahoo!ニュース

 

このニュースは「地裁のトンデモ判決」として各所でとりあげられていました。

既に訂正されているかもしれませんが、誤解も多かったのでまとめておきます。

 

判決文

裁判所のWEBサイトから判決が読めます。

平成27年4月13日判決言渡

 

判決文を読めば、一般的に想像されることは考慮されていることが分かります。

 

事件と裁判の概略

国道8号で衝突事故、1人死亡 大学生ら3人重軽傷 あわら - 福井のニュース - 都道府県別 - 47NEWS(よんななニュース)

はんていさん : 国道8号で衝突事故、1人死亡 大学生ら3人重軽傷 あわら - livedoor Blog(ブログ)

  

<加害車(G車)>

A:運転手大学生(19)-軽傷

亡G:助手席に洋服店経営者(34)-死亡(子なし:年収463万4150円)

K:後部座席の大学生(19)-鎖骨骨折

 

<被害車(F車)>

F:会社代表取締役(44)-腰の骨を折るなどの重症(年収:720万円)

E:F車の所有者

 

<裁判の原告>

B:亡Gの妻

C:亡Gの親

D:亡Gの親

 

 

事故現場はここら辺ではないかと思います。

見通しの良い国道で、G車(加害車)はこちら側から向うに走っていました。

 

<補足情報>

F車(被害車)が進んできた方向には、直前に店やわき道(畑道)があります。

Yショップ福井県あわら市瓜生18-9-2

事故現場はわき道から車3台分程度の距離です。

 

事件の前日~当日

事故が起きたのは、2012年4月30日(GW)、朝の7時15分頃。

 

<G車(加害者)>

亡G・A・Kの3人は、前日の29日、亡Gが運転するG車でコンサートへ向かい、8時間半ほど運転した後、午前1時までコンサートなどに参加しました。

 

そのまま休憩をとらずに帰路につき、途中4時頃に食事をとった後、亡Gが「そろそろ限界だ」というので、Aの申し出で運転を交代しました。

 

交代から約10分後に亡Gがシートを倒して寝はじめ、後部座席のKも寝ていました。

 

事故現場から800m手前くらいでAが仮眠状態に陥りました。

事故現場から80mくらい手前で車体は50cmほどセンターラインをはみ出す形で走行していた為、F車の前を走っていた2台の車は左によってG車を避けましたが、F車は避けることができずに衝突しました。

 

亡Gはシートベルトをしめておらず、結果的に被害が大きくなり、脳挫傷により死亡しました。

 

<F車(被害車)>

FはEの車でゴルフコンペへ向かっていました。

 

事故の際、F車の前には2台車が走っており、その2台はG車を避けて通りました。

しかし、F車は左前方の歩行者に気をとられていて、G車に気づかず衝突しました。

 

F車の過失

Fは、衝突地点から62.2mの地点で、前方の歩行者に視線を移しました。

事故現場まで17mほどの地点まできて、前方33mの位置にG車を発見し、急ブレーキをかけたと証言しています。

 

F車は時速50km程度で走行していて、停止距離は24.48m。

F車の前を走っていた1台目は、G車との距離29m地点で回避措置をとっています。

1台目がG車とすれ違ってから、F車とG車が衝突するまでの時間はおよそ5秒で、距離は35~64m(もう少し距離があった可能性もある)。

 

Fは、記憶に曖昧な点があることを認めていますが、記憶に違いがなかったとしても、Fの前方不注意がなければ事故を軽減できた可能性はあります。

 

裁判でも「事故を軽減できた可能性」が重視されていて、事故そのものは防げなかったとしても、被害が大きくなった責任はFにもあるという判断です。

 

今回はG車に明らかな過失がありますが、たとえば相手が動物であったり、自然現象や災害であったりと、不足の事態は起こるものです。

運転者には危険予測や回避義務がありますから、その部分については過失を問われてしまうかなと思います。

 

ただ、F車がどの時点でG車を発見できたかについては、

●G車との正確な距離

●即断できたか、選択肢があったか

●前2台との位置関係(死角であったかなど) 

●「左の歩行者」に気をとられていた正確な地点

などにもよります。

 

また、F車の前2台はハンドルを左に切ってG車を避けています。

G車は100mほど前から徐々に右車線に入り込んできていて、F車と衝突する時点ではかなり右車線に入っていたと思われます。

 

F車がG車との衝突を回避するには、前2台とは逆の右へハンドルを切って、対向車線にはみ出す必要がありましたが、対向車線にはみ出す行為はそれ自体が危険であるため、選択できなかった可能性があります。

衝突の事実をもって前方不注意を立証することもできません。

 

総合すると、Fに過失があったともなかったとも言えません。

そのため、事故の過失相殺は認められず賠償義務は負いませんが、無過失の証明もできないので、(亡Gの被害は確かなものであるため)自賠法による賠償責任は負う、ということになったようです。

 

判決

●AはBに対し5233万2067円を払う。

●AはC・Dに対し、各1500万5516円を払う。

●AはFに対し、1472万4000円を払う。

 

●EはBに対し3112万7992円を払う。

●EはC・Dに対し、各893万1998円を払う。

 

●BはFに対し、981万5999円を払う。

●C・DはFに対し、各245万3999円を払う。

 

※計算や細かな費用、支払方法等については、判決文に記載があります。

 

<払う額>

●A=9706万709円(B・C・D・Fに対して払う)

●E=4005万9990円(B・C・Dに対して払う)

●B=981万5999円(Fに支払う)

●C=245万3990円(Fに支払う)

●D=245万3990円(Fに支払う)

 

Eが亡Gの遺族B・C・Dに支払うはずの賠償金は、6331万9981円でしたが、亡Gの過失を4割として過失相殺され、3799万1989円になりました。

 

3799万1989円は法定相続割合で配分され、

●B(Gの妻)は2532万7992円

●CとD(Gの両親)は各633万1998円

を、それぞれ受け取ります。

 

葬儀代や慰謝料などは別なので、Eが払う賠償金等の合計は、4005万9990円になります。

 

裁判と自賠責保険の説明

この裁判では「甲事件」と「乙事件」が同時に審議されました。

 

「甲事件」とはGが死亡した件についてで、

「乙事件」とはセンターラインはみ出しによる衝突事故です。

 

「甲事件」では、AとEがB(亡G)に対して賠償金を支払う側で、

「乙事件」では、Aと亡G(B)がFに対して賠償金を支払う側です。

 

ニュース記事の「被害者に4000万円の賠償判決」というのは、「甲事件」です。

F車所有者であるEが、亡Gの遺族(B・C・D)に賠償金を支払います。

 

F車運転手であったFは、亡Gの遺族に賠償金を支払いません。

Fは「乙事件」の被害者なので、Aと亡Gの遺族(B・C・D)から賠償金を受ける側です。

 

自賠責保険は、車両に対してかけられている保険で、事件の加害者か被害者かは関係なくケガなどをした人を救済します。

運転者Fではなく、車の所有者Eの自賠責から亡G(B・C・D)に支払われます。

 

死亡事故の賠償金は年収損失分などが考慮されるので高額になります。

自賠責保険の支払い上限は3000万円なので、自賠責だけでは足りません。

足りない分は、(加入していれば)任意保険から補てんされます。

各上限が、自賠責3000万円+任意3000万円であれば、死亡者1人につき6000万円まで保険がどうにかしてくれるということです。

 

今回のケース

EやFが任意保険に入っているのではないかと思うので、その場合は自賠責保険と任意保険からすべて支払うことが可能です。

でも、保険を使うと保険料が高くなるので、(任意保険の有無に関わらず)私なら亡G遺族らと支払調整で折り合いをつけれるなら、そちらを選択すると思います。

Eの支払う賠償金は、Fの受け取る賠償金で一部相殺できるからです。

 

Eは亡Gの遺族に賠償金等を払いますが、逆にFは「乙事件」の被害者として約3000万円くらいを受け取ります。

亡Gの遺族からだけでも約1500万円くらい受け取ります。

普通に考えれば、Eに迷惑をかけたFが、この3000万円の中からEの損失分を補てんすると思います。

 

FはEの務める会社の代表取締役なので、仕事上の給与や待遇変更などを含め、かけた迷惑の相殺方法は幾らでもあります。

特別な事情をもってモメない限り、EとFは協力して本件を処理していくだろうと思います。

 

今回の判決は、Fに全く過失がなかった場合を除き、各人の負担を最小限に抑えつつ、E・F・亡G(の遺族)という被害3者を救済する判決であったと思います。

FがEの損失分を補てんした場合、Fは被害者でありながら賠償額が減ってしまいますが、それでも約2000万円くらいは受け取れます。

それ以上の損得はEとの関係によるところも大きく、前方不注意があったとすれば、一部相殺があることくらいは仕方がない気がします。

 

二ユースの問題

この裁判の判決が誤解されたのは、ニュース記事が誤解を招く書き方をしていたからだと思います。

どの記事を読んでも、詳細が偏った形で省かれているように感じました。

 

でも、ニュース記事だけが問題とも言い切れません。

 

後追いで書かれた記事も、主観的に善悪を考察するものが多く、法律家でさえ自賠責保険に関する補足がメインでした。

また、Twitterで「被害者の方にも前歩不注意があったらしい」という情報を出した方がいましたが、「ソースをみせろ」というコメントがつけられていました。

 

専門家を含め、多くの人が判決文を読んでいないことが窺えますが、WEB観覧できるので、判決の是非に言及するなら目を通しておく方が良いのではないかと思います。

 

ドライブレコーダーが救世主になるとき

それとは別に、「ドライブレコーダーさえあれば!」という意見を多く見かけましたが、それが有利に働くのはFに過失がなかった場合です。

 

私もよく車を利用しますが、わき見運転や速度超過を全くせずに運転するのは難しいです。

危険予測や、他車の運行を妨げないためには必要な時もあります。

今回のような事件は運によるところが大きいです。

 

そういった事情の中で事故が起こった時、ドライブレコーダーが助けになるとは限りません。

自身の過失を証明するアイテムにはなりますけどね。

 

今回の事件から何か学ぶとしたら、シンプルではありますが、やはりちゃんと休憩をとりながら無理なく運転にあたることだろうと思います。

 

亡GとFと自賠責に焦点が集まっていますが、Aは1億円近い賠償を負っています。

Fと同じように任意保険の特約があれば金銭面では多少なり救われますが、年齢的に親の保険に加入している可能性もあり、微妙ではないかと思います。

何れにせよ、重い荷物を背負いながら先の人生を歩んでいくことになります。

 

Aは亡Gが疲れていたので善意から運転を代わったわけです。

Kと同じように後部座席で寝ているだけなら、加害者にはなりませんでした。

亡GかKのどちらかでも起きていれば、事故は起きなかったかもしれません。

亡Gの死亡に関しても、亡Gがシートベルトをしていなかったことが原因の1つです。

 

これは感情論ですが、AはFに対しては加害者であっても、亡Gとの関係においては一方的な加害者というわけではない気がします。

法的には仕方ないのかもしれませんが、みんな同様に疲れていた中で、全員が休憩ではなく交代を選択したわけですから、ちょっと損な役回りになってしまったのかなという気がしてしまいます。

 

まずは事故を起こさないことが重要ですから、限界だと思ったら運転を止めた方が良いですよね。

高速道路ならともかく、事故現場は一般道だったので、幾らでも停まれる場所がありました。

 

統計表一覧 政府統計の総合窓口 GL08020103

居眠り運転による事故は多くありませんが、片道8時間半の距離で夜遅くまでかかる予定なら、1泊するかSA等で休んだ方が良いですし、スケジュール的にそれができないならコンサートには参加すべきでなかったと思います。

 

もう1つは、保険の重要性です。

亡Gが任意保険に加入していれば違った結果になっていた可能性もあると思うので、本件に関しては、ドライブレコーダーよりも保険の方が助けになったのではないかと思います。

 

ドライブレコーダー自体は用意があって良いと思いますが、それが役に立つのは自分が法律を守っている時だということを意識しておく必要があると思います。

 

※修正しました。