母子家庭の話題をよく見かけますが、色々とごちゃ混ぜに語られていることが多い気がしていたので、まとめてみます。
離婚の増加によってシングル家庭が増えている
コラム5 母子家庭の支援から,父子家庭を含めたひとり親家庭の支援へ | 内閣府男女共同参画局
母子家庭は124万世帯、父子家庭は22万世帯です。
シングル家庭は、大半が離婚によってその家族構成になり、85%が母子家庭です。
父子家庭は概ね横ばいで、大半は母親が子供の親権を持ちます。
1965年までは父親が親権を持つのが一般的でしたが、徐々に母親へと移行し、2000年以降は今の形になっています。
(離婚件数の推移)
離婚の増加に伴いシングル家庭は増えていますが、一方で、総務省の平成26年統計では、「子供のいない世帯」は77.4%で、昭和61年以降で最高になっています。
世帯数が増加する一方で、世帯人数は減っていますから、独身世帯が多くなっているということです。
家族という単位での相互扶助が成立しなくなってきているのかもしれません。
「一般母子世帯」と「被保護母子世帯」
母子家庭で生活保護を受けているのは、10~20%です。
80~90%のお母さんは就業していて、自力で生活しています。
シングル家庭は生活保護などの話題でよく槍玉に上がりますが、生活保護制度を利用している世帯の方が少数派です。
就業所得で生活している母子世帯を「一般母子世帯」、生活保護を受けている母子世帯を「被保護母子世帯」と区分できます。
「一般母子世帯」の平均収入は223万円ですが、内180万円以上が就業所得です。
(父子世帯の平均収入は380万円)
一般家庭でも、児童手当などで子供2人いれば年間30万円くらいは手当を受けているので、そちらと変わりない状態です。
別に児童扶養手当というものがあり、「一般母子世帯」の平均例(義務教育課程の子供が2人いる場合)でいうと、児童扶養手当と児童手当をあわせると最大4万円くらいになりますが、所得制限があります。
あとは、市区町村によっては就学支援として学用品や給食費などを支援してくれますが、経費支援みたいなものです。
母子家庭のお母さんが頑張っているのは数字からも読み取れます。
生活保護の内訳
生活保護者は、高齢者55%、シングル世帯9%、傷病・障がい者36%です。
高齢者がダントツに多く感じますが、年金の補てんとして生活保護を受給している人が多いため、高齢者のみの平均受給額は4.5万円ほどです。
全体の平均受給額が12万円、母子家庭の受給額は20~26万円くらいなので、支出額でみると、高齢者と母子家庭は10%程度の差しかなく、傷病・障がい者への支出が大きいです。
でも高齢者や傷病・障がい者に対する支出は制度主旨にそっていると思います。
問題は母子家庭です。
基本的には働き手のいる世帯であり、実際、多くの母子家庭は仕事をしています。
母子家庭に対する生活保護は、本来は一時措置でありますが、長期受給になる傾向があります。
母子家庭の違い
こちらの表では、状況の思わしくない方に色付してあります。
被保護母子世帯の方が可処分所得が多いです。
貯蓄は少ないですが、借金も少ないです。
家賃以外に12万円程度を使えている計算になりますから、やりくりできる範囲ではないかと思います。
しかし被保護母子世帯の方が「(経済的に)生活が苦しい」と感じているようです。
また、「体調が悪い」という思っている人は、一般母子家庭37.1%に対し、被保護母子家庭では72.9%と高くなっています。
健康状態(うつ病や心の病気)が悪いと感じている人も多く、そういった世帯では子供の「うつ病や心の病気」率も約10倍高くなっています。
貧困率
日本の母子家庭は、OECD中最も就業率が高く、労働時間も長いですが、貧困率が最も高いです。
賃金水準が低いためで、無職の二親世帯より、有職の母子家庭の方が貧困率が高くなっています。
無職世帯よりも貧困率が高いというのは由々しき事態で、日本において男女の賃金格差問題が深刻であることを意味しています。
「母子家庭の母及び父子家庭の父の就業の支援に関する特別措置法」など、助成金制度などについて認知が広まると良いなと思います。
被保護母子世帯の特徴
被保護母子世帯の母親は、中卒が約50%、高卒までを含めると90%以上になります。
10代での出産率も学歴に影響を与えていて、元夫も低学歴・低収入で、そのまた親も保護を受けていた世代間保護が約70%と非常に高いです。
虐待率は全国平均の2倍、虐待している母親もDVや虐待の経験がある人が多いです。
生活保護を受けている母親の平均年齢は35.61歳です。
奨学金の話で、ダイアモンドに母子家庭の話がありましたが、前回の記事で母親の半生が書かれていました。
不仲な両親の元に育ち、進学は希望していなかったが、周囲のすすめで高校は定時制に通った。高卒後は温泉街のコンパニオンをしていて、その頃に妊娠。安月給の夫と結婚、出産後もホステスとして働いだが、浮気を疑われて離婚。30歳くらいになって生活保護へ。
話が本当か嘘かは分かりませんが、被保護母子世帯のモデルケースのひとつです。
被保護母子世帯の親は、先に述べた通り、世代間保護者の割合や虐待を受けて育った割合が高いため、早い時期から家を出たいと思っていた人が多く、男性に依存して若いうちに家を出ますが、販売や水商売で生計をたてる人も多く、妙齢を過ぎて色々と立ち行かなくなり、という流れがあります。
多子や死別などもありますので全てではありませんが、本来30~40代というのは働き盛りですから、病気以外で仕事ができない理由というのは限られてきます。
一般母子世帯をみると事務職が多く、その職に就くスキルか別の専門スキル等を持っていないと、生活保護の方が収入が多くなります。
一般母子世帯については職業訓練を行うことによって就職率が上がるようですが、被保護母子世帯にはあまり効果がないようです。
虐待といっても程度問題で、中流家庭でもわりと感情的な躾をしているものですし、貧困より富の方が受け継がれやすいので、その連鎖性について、全て親のせいとも言い切れませんが、生活保護を受けて育った人はそう多くないので、比較数が少なく易に結論は出せませんし、働いても年収180万円という現実も無視できません。
「水商売でもした方が良い」という人もいますが、不正受給はサービス業が多い(収入申告が緩い)ので、そちらも合せて考える必要があると思います。
なぜ養育費を払わないのか
離婚後に元夫から一度も養育費を受け取ったことがない母子家庭は60%以上で、継続して受け取った経験があるのは20%です。
給与の差し押さえなど、強制執行も可能ですが、そこまでする人は少ないようです。
養育費について相談経験がある母子家庭は半数程度で、公的支援を受けていないケースが多いです。
母子生活資金や生活福祉資金もありますが、90%以上の人は利用していません。
なぜ離婚した夫が教育費を払わないかですが、理由は大きくわけて4つあります。
1.「お金がない」
元夫側の平均年収は300万円以下で、そもそも離婚した原因が経済事情にあることから、請求が難しくなっているようです。
養育費の支払いは年収額に比例していて、年収が高い人ほど支払い率も支払額も高くなります。
2.「養育費の取り決めがない」
協議離婚は、裁判所や弁護士を介さず、夫婦だけで条件を決めて離婚する方法です。
調停や裁判よりも簡単なので、約90%がこの方法で離婚しますが、離婚協議書を公正証書化する人は少なく、まず養育費について取り決めをしている人が約38%くらいしかいません。
また、たとえ養育費が払われたとしても、実費に及びません。
調停や裁判によって金額を取り決めた場合でも9割が8万円未満、過半数が4万円程度と、実費の半分程度が相場です。
3.「再婚によって」
高所得層は低所得層よりは支払い率が高いですが、年収800万円以上でも半分は養育費を払っていません。
高所得男性は再婚率が高く、再婚した家庭でも世帯主となることが多いため、養育費を渋る傾向があります。
4.「絶縁状態にある」
DV被害者など離婚した夫と敵対関係にある場合、面会や養育費の受け渡しなどで関係が継続されることに苦痛を感じる人が多いです。
1~4全ての事情に法的措置や行政サポートが必要です。
「シングル出産をしやすい社会に」の問題
シングル世帯率が高い欧州では、籍が入っていないだけで、過半数以上がパートナーと子育てを行っています。(大抵は未入籍の実親が子供を育てている)
しかし、日本の場合は家族以外と同居しているのは12%しかいません。
平均世帯構成数は3.42人、持家に住んでいる割合は30%、母親名義の持家に住んでいる割合は11%です。
実家で同居している割合は30%程度なので、多くの母子家庭では、母親がひとりで平均2人ほどの子供を育てているということです。
多様な生き方ができるようになるのは良いことですし、シングル家庭への支援も必要だと思いますが、シングル出産をしやすくするためには、男性も含め社会全体で未婚率が上がらないといけません。(一夫多妻制度の問題点については別途)
欧州のように、既にそういう状態になっているなら対処必然ですが、まだそうなっていない日本で、欧州の社会体制をとりいれるために未婚化をすすめるとなれば、功利が強く問われると思います。
そもそも、シングル世帯の多くは「離婚」によって家族構成が変化していて、未婚出産ではありません。
4組に1組は再婚しますので、シングル世帯の父母であっても、結婚制度に反対しているとは限りません。
これひとつで解決!とはいかないけれど
離婚後の母子家庭が再出発するには、まず家です。
また、一般母子世帯と被保護母子世帯の違いとして、相談相手があります。
生活水準を維持しながら、社会からの孤立をさけるには、ルームシェアは有効です。
こちらの話は多分に偏見が含まれていますが、第三者が必要であるという点には賛同できます。
子育てには色んな役割をもった大人が必要です。
そういった役割分担は、同性間でも行えますので、女性だけで構成される扶助関係が存在しても問題ありません。
なぜ女性だけかというと、男女の場合、事実婚とみなされるケースがあるからです。
時代錯誤だと怒る人もいますが、内縁関係にあって同居している人達もいます。
人間関係は複雑ですから、ある程度の線引きは仕方ありません。
ケース毎に柔軟対応できれば良いですが、今の離婚率ではとても予算が足りません。
既に母子家庭向けの物件はあります。
ただ、仕事をしていることが前提であったり、3ヵ月間のみであったり、民間だと色々と条件があります。
また、トラブルもあるようです。
「女性特有の妬み」なんて存在しませんが、対人トラブルについては、管理人を置くなど間に人をいれるしかなく、そうすると費用がかなり高くなります。
シェアハウスでの暮らし | 鬱なシングルママ8年目のひとりごと
トラブルの中で気になるのは、被保護母子世帯です。
一般母子世帯と被保護母子世帯は、性質がかなり違うので、同居が上手くいかないケースがあるようです。
客観的にみれば状況は似ていますが、場合によっては正反対の性質をもっているので、分けた方が良いと思います。
一部ではそういった支援もあるようなので、これからなのかなと思います。
ただそれとは別に、治療が必要な被保護母子世帯に対して、住処とお金を渡し、あとは面談だけのフォローというのでは足りない気もします。
最低でも、なあなあ対応になっている診断書の提出や治療の義務化はすべきです。
負の連鎖を断ち切らないと、繰り返されてしまいます。
負の連鎖を断ち切る方法としては、長期的にみると、子供の学力を上げることも効果的だそうです。
高校時点では少し遅いので、義務教育の質を向上させる必要があります。
貧困家庭に育った子どもほど人的資本の収益率が低くなり,大学での奨学金,職業訓練,減税などの支援も効果を生みにくいという報告(Carneiro and Heckman 2003)もあり,長期間の不利の蓄積を解消するのは容易ではない。日本でも,青砥(2009)の調査による高校中退者の経済的困窮状況と圧倒的な学力不足を考慮すると,高校受験時や入学時での補習教育時では,不利の挽回には遅きに失している。Sherman(1994)は,子ども時代に 1 年間貧困状況にあると生涯賃金は約 1万 2,000 ドルも減少するだけでなく,貧困問題は医療費,治安対策コストなどの増加にもつながるという。同研究は,子どもたちを貧困から脱却させるコストを試算しているが,この費用の方が貧困によって失われた社会コストよりも安いという結果は注目に値する。
でも子供が女性であった場合、学力向上に力を注いでも、自立では解決できない可能性もあります。
1年間の貧困で生涯賃金に150万円くらいの差ができるとされていますが、男女の正社員年収差は平均125万円、非正規を含めると230万円以上の差になります。
負の連鎖を断ち切れなかった場合と同程度か、それより悪い状態にあります。
大まかにいえば、一般母子世帯の問題は女性の賃金水準が低いことですから、社会の問題で、被保護母子家庭の問題は家族の中で受け継がれてしまう体質にありますから、家庭の問題です。
一般母子世帯へは金銭支援、被保護母子世帯には治療支援が必要であり、これを適切に行っていく必要がありますが、両方ともできていない状態です。