基本的に国民は自由に契約や選択などを行えますが、権利には制限もあります。
なぜ制限があるかというと、「泥棒も職種の一つだ!」「悪口を言うのも自由だ!」「浮気も売春も自由恋愛の内だ!」「権利者は王様だ!」といった風に、自分の損得だけで権利行使する人が出てくると困るからです。
法律では、他人を傷つけたり騙したりする人、権利をむやみに行使する人、迷惑行為や誠実性の欠ける行為、社会通念・公共の福祉・公序良俗・契約に反する行為などでは、権利を制限しています。
以下、私達の生活に身近な「自由」を考える上で重要な部分について。
公法と私法
公法とは
国・行政等(公権力)と国民の関係を規定する法。憲法や行政法など
私法とは
国民間(私人間)における私的生活関係を対象とする法。民法や商法など
民法の三大原則
権利能力平等の原則
人は階級や職業、性別などによって差別されず、等しく権利義務の主体となることができるとするものです。
私的所有権絶対の原則
土地所有に関する封建的拘束(土地の売買の禁止、農耕の強制など)を否定したものであり、所有者は自由にその所有物を使用・処分などできるということと、その所有権の侵害行為は、誰による侵害であれそれを排除できるというものです。
私的自治の原則
個人は、他者・国からの干渉を受けることなく、自由に法律関係を形成することができるという原則。結果生じた問題については責任を負わなければならない。
私的自治の原則の基本原則
私権をまったく自由・無制限に行使できるとなると、トラブルが起こりやすくなるなど弊害が生まれるため、民法 第一条「基本原則」の3項により、私権は制限されている。
「公共の福祉」「信義誠実の原則」「権利濫用の禁止」
(この基本原則に触れる場合は私権が認められない)
民法 第1条 基本原則
1.私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
「公共の福祉」
私権は公共の福祉に反するものであってはならない、としています。
90条と憲法第13条にも類似規定があります。
90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
憲法 第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする
2.権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
「信義誠実の原則」
相手方の信頼を裏切ることのないよう誠実に行動すべきであるという原則。
派生原理(民法には明記されていないが考慮される原則など)
- 禁反言(きんはんげん)の原則
自分のとった言動に矛盾する態度をとることは許されないという原則・考え方。
「約束したけど、よく考えたら損するから、やっぱ止めるわ」はダメ。
法を守る者だけが法の尊重・保護を求めることができるという原則。
「愛人契約を解消するからお金を返還して」という請求は、愛人契約のように公序良俗に違反する場合でも、不法原因給付(708条)にあたり、請求できない。
- 事情変更の原則
契約後に事情が変化したことで、契約当時の内容が非常に不公平となる場合、契約内容を変更できるという考え方。契約の自由が尊重されるので、適応は極めて稀。
天災や急激な経済変動などの不可抗力による価値の変動など。
- 権利失効の原則
権利者が長年にわたり権利を行使せず、相手がもう権利は行使されないだろうと信じていた場合、突然その態度を変えて権利を行使することは許されないという考え方。一定の要件で権利の消滅を認める「権利消滅」とは別。
- 契約締結上の過失
契約を締結する過程で、当事者のいずれかの過失によって契約が不成立となった等の場合は、相手方に生じた損害を賠償すべきだという考え方。
契約後の過失は損害賠償請求を行えるが、この考え方のポイントは「契約前」でも損害を賠償すべきという点。
「この契約は成立するだろうから、設備投資をしよう」等として支出された額は、信頼利益として保護すべきという考え方。
3.権利の濫用は、これを許さない。
「権利濫用の禁止」
権利をむやみに濫用してはいけないという考え方。正当な権利行使のように見えても、社会的に認められる限度を超えた権利行使は認められない。
権利の濫用かどうかの判断
客観的要因(利害のバランス)と主観的要因(権利行使の意図)を総合して判断される。
「表現の自由が保障されているとしても、悪口を言っていいというわけではない」
「権利者であっても、社会通念に反する権利行使は認められない」
「外見や一部を変えても、内情が公共の福祉に反していれば認められない」
など。
権利の濫用とされた場合
民法 第90条 公序良俗違反
公の秩序と善良の風俗をまとめて公序良俗と言い、法が守るべき社会的妥当性のことをいうものと考えられています。
以下は、90条により無効とされる
- 犯罪やそれに類する行為を勧誘したり、それに加担するもの。
- 家族秩序や性道徳に反するもの。(愛人契約など)
- 個人の自由を極度に制限するもの。(芸娼妓契約や、長期にわたって競業避止義務を課す契約など)
- 憲法に定める基本的価値に反するもの。(男女で異なる定年退職規定など)
- 相手の無知や窮状に乗じて暴利を得る行為。(高利貸しや高額の違約金・過剰な担保の設定など)
- 著しく射倖的なもの。(賭博契約など)
芸娼妓契約とは
- 不倫の相手との間で、妻と将来離婚し、相手と結婚する約束をし、それまで相手に扶養料を払う約束をする場合のように、家族道徳に反する行為。
- 親の借りた借金を娘が芸娼妓として働いて返済する旨の芸娼妓契約のように、人格の尊厳または自由を害する行為。
- 人を殺す対価として金員を与える約束のように、社会的な倫理に反する行為。
動機の不法
法律行為をする者が、その法律行為自体は違法とされるものでなくとも動機までを考慮した場合、不法なものと評価できるものがあります。
(例えば強盗をするために包丁を買うなど)
動機に不法性がある場合、法律行為が公序良俗に反し無効とされることがあります。
参考・引用元などの一部: