強姦件数は減少傾向にありますが、強制わいせつは平成11年あたりで急増したまま高水準を維持しています。
その加害者の9割が男性で、男性被害者に対する加害者も男性が多いです。
男女間のトラブルでは、男性側が加害者であるケースが圧倒的に多いです。
でも、それはそれで側面的な考察であり、誤解も多い気がするので、少し整理しながら実態について考えていきたいと思います。
職種はあまり関係ない
痴漢と性犯罪全般とで比較すると多少違いがありますが、基本的に、性犯罪者には職業差があまりありません。
割合でいうと「無職者」「自営業者」などが多く、社会規律の影響を受けにくい立場ほど犯罪者になりやすい傾向があるようですが、数だけでいえば当然「サラリーマン」などが多いです。
よく、「高給職や公務員は性犯罪者が多い」 という人がいますが、個別の状況下での犯罪対策でも考える場面でない限り、ほぼ「差は無い」と思っていていいと思います。
児童に対する性犯罪
(子供対象・暴力的性犯罪認知件数の推移(平成15~24年))
児童が巻き込まれる性犯罪は、14歳以上の女性が受ける性犯罪と、人口割合でみると大差ありません。
こちらも、個別の対策を考えるので無い限り、他の性犯罪との違いはあまり無いと考えていいと思います。
犯罪者の年齢
強制わいせつの加害者年齢は、20代→30代→40代→10代の順に多いです。
65歳以降の犯罪者はまとめられていますが、75歳で区切っている統計をみると、大半は60代の人達です。
平成10年と平成25年を見比べると、30~40代と60代以降の犯罪が増えています。
犯罪者の世代別犯罪数
これは強制わいせつ数を世代別に抜き出したものです。
見てわかる通り、犯罪数は世代によって違います。
これをどう解釈するかについては、各世代の人口数が重要になってきます。
人口ピラミッド図をみると、左右に張り出した起伏が2か所あるのが分かります。
上の突起世代が「団塊世代」で、次の突起世代が「団塊ジュニア世代」です。
「団塊世代」は、第一次ベビーブーム世代であり、
昭和22~24年(1947~1949)生の人達で、現在65~67歳です。
「団塊ジュニア世代」は、第二次ベビーブーム世代であり、
昭和46~49年(1971~1974)生の人達で、現在40~43歳です。
性犯罪数をみると、昭和45年と平成15年の前後で大きな山ができています。
昭和40年代頃は、まだ加害者年齢が若く、10代の強姦犯罪も多い時期でした。
「団塊世代」は、昭和40年16~18歳、昭和45年21~23歳でした。
平成15年頃になると、20~30代の犯罪が多くなりました。
「団塊ジュニア世代」は、平成15年29~32歳でした。
犯罪率の高い世代は、生涯を通して犯罪率が高い傾向があると解釈することもできますが、人口ピラミッドを併せて考えると、世代間での犯罪数の差は、人口数の差である可能性が高いです。
犯罪数が多い世代は、その犯罪を起こしやすい年代の人口数が多いということです。
男性の一定数が犯罪者になる
以上のことをまとめると、性犯罪は犯罪気質をもった異常者だけが行うのではなく、男性の一定数が犯罪者になると考えられます。
では、どんな対策をとっても男性の一定割合が犯罪者になってしまうかというと、そうとは限りません。
こちらのグラフは、「犯罪率」をみるために、世代別の人口数と、その年代の犯罪者数を比較したものです。
青と赤の線が近いほど、その年代の人口数に対して犯罪率が高いということになります。
30代の1995年は犯罪率が高くなっています。
10年後の2005年になると、40代の犯罪率が高くなっています。
更にその9年後である2014年は50代の犯罪率が高くなっています。
犯罪数は人口数と密接な関係がありますが、たとえば職業でみると少し割合の高いものがあるように、「犯罪率」としてみると、人口数が増える時に割合よりも少し犯罪率が高くなります。
これには別の影響が働いていると考えられます。
強姦事件について
強姦犯罪の発生数は、昭和50年以降はほぼ横ばい状態が続いており、人口が肥大している近年でも減少傾向にあります。
私の説が正しいとすると、人口数と事件数は推移が重ならなければおかしいです。
でもこれは、総人口ではなく犯罪数の多い20~30代に絞ってみると、強姦の発生件数と人口数は似た推移グラフになります。
前後にズレがありますが、世代推移によるものと考えられます。
被害者と加害者の面識率
(平成24年-2012)
(平成11年-1999)
(昭和51年-1976)
昭和51年の面識率は約40%、昭和58年(1983)は約28%、平成11年は約30%、平成24年は約50%、と波があります。
しかし、実際の「面識数」を割り出してみると、昭和51年以降から平成21年辺りまでは差が緩やかで、大差ありません。
そしてまた以降で面識数が上がります。
現在は顔見知りによる犯行が多いですが、家族が加害者であるケースは少ないです。
強姦事件の発生場所
(平成25年-2013 強姦発生場所)
(昭和51年-1976 犯罪発生場所)
昭和51年と比べると、住宅や性風俗店・店舗内等が増えています。
以下は、50件以上の強姦事件が起こった発生場所です。
戸建住宅=131件
共同住宅(3階建以下)=286
共同住宅(4階建以上)=207道路上=106
モーテル・ラブホテル等=90
一般ホテル・旅館=51
その他の駐車場=56 (月極・コインP以外)
その他の自動車内=56(タクシー以外)
年齢は20代が圧倒的に多く、次いで10代となります。
発生時間帯は22~4時の深夜帯が多いです。
強姦事件に関する考察
ストーカー被害も急増していますので、顔見知りストーカーによる延長行為とも読み取ることもできますが、店舗内や性風俗店での犯行も少なくないことを考慮すると、友人や知人という線もあるのかなと思います。
だとすると、社会全体の風紀の乱れ(関係性の変化)が犯罪質に影響を与えている可能性もあると思います。
少なからず、性風俗は性犯罪の抑止になっていない可能性が高いです。
強制わいせつ事件について
強制わいせつも、一見すると平成15年あたりの急増は人口増減に伴わないように感じますが、これも世代別に抜き出してみると重なる部分が多いです。
概ね30代人口の推移に近いですが、強制わいせつの加害者年齢は20代が最多であり、20代だけで40~50代をあわせたくらいの犯罪件数がありますので、間の30代が平均値になっているのでしょう。
細かくみていくと、それぞれの年代の影響を時間差で受けていることが分かります。
類似グラフ
欲望の上限 - ノモアで取り上げたように、2008年の携帯フィルタリングとの関係性など(規制が犯罪を増やしたという意見)、因果関係を見出そうとする人がいます。
しかし、たとえば2008年はソフトバンクからiPhoneが発売された年ですから、規制が犯罪を増やしたと考えるよりも、ネットがより身近な存在になったから犯罪が増えたと考える方が自然です。
とはいえ、要因を特定するのは難しいです。
JEITA / 統計データを元に「強制わいせつ数」と「移動携帯電話出荷台数」を比べてみると、推移に重なる部分が出ます。
ネット利用率でみると、インフラ整備が進んで行く中で、利用率は右肩上がりに増えていきますから、強制わいせつのグラフが下がる部分で一致しなくなります。
しかし、携帯電話という括りでみると、下がる部分も一致します。
では、これがどんな風に関係しているのかと考えると、
おそらくiOSは含まれていないので、2008年以降にdocomoからSoftBankに乗り換えた奴が犯罪者だ!なんて解釈もできます。
いや、できません。
無茶いうなって話です。
こうした類似するグラフでも、おそらく関係性は無いだろうと思われるものもあるわけです。
ネットの利用推移を年代別に出している資料が見当たりませんでしたが、犯罪の多い年代だけ切り取ってみると、もしかしたら見えてくるものがあるかもしれません。
でも、今のところネットと性犯罪を結びつけるのは難しいです。
ただ、欲望の上限 - ノモアでも書いたように、影響がないとは思いません。
まとめ
性犯罪の原因を探る考察は沢山ありますが、多くは解釈に頼ったものです。
それらに比べると、この「性犯罪者は男性人口の一定割合で生まれる」という結論は、事実に近いのではないかと思います。
もし他の要素が働いているとしても、土台として考慮できるだけのものだと思います。
では、そうであるとして、どのように性犯罪割合を下げれば良いのかということになりますよね。
1つは、性犯罪を行いやすい環境を改善していくことだと思います。
たった10%減るだけでも、1万件は犯罪が減りますから、環境改善は必須です。
2つめは、性犯罪は他の犯罪に比べるとやや再犯性が高いので、懲役刑を重くするのがいいのではないかと思います。
犯罪者自体が少なくなるわけではありませんが、犯罪を行える距離にいないというのは重要です。
また、性犯罪の質という点でいうと、約半分は顔見知りの犯行ですから、女性側にも注意できる部分があるのではないかと思います。
性風俗やアダルトコンテンツについては、犯罪を助長しているとまでは言えないと思いますが、同時に、抑止力にもなっていない可能性が高いです。
「性風俗やアダルトコンテンツ等のおかげで犯罪に至らないで済んでいる」というのは詭弁です。
その上で、規制が必要かどうかというと、必要だと思います。
たとえ犯罪数には直結していなくても、犯罪の質、性行為の内容、恋愛観、人生観などには影響を与えていると思うからです。
アダルトビデオの性行為を真似たことがある男性は少なくないと思います。
誰かの自慢話に感化されて、ナンパをしたり、浮気をしてしまった人もいますよね。
影響はあるわけです。
そして何より、被害者の救済が重要であり、犯罪者に対しても更生の機会を与える必要があると思います。
現在の再犯率は、罰則あっての数値であり、それでも低くないので、規制を緩和するのは危険です。
不起訴となるケースも少なくありませんが、それもなくなってしまったら、性犯罪者は繰り返し続けるだろうと思います。
性犯罪者への罰で大事なのは、懲役刑です。
万が一、法律に抑止効果がなかったとしても、社会からの隔離は必要です。
規制緩和できるとしても、罰金についてだけなのです。
合法だろうが違法だろうが、苦しむ被害者がいることに違いありません。
まずは被害者の救済を優先して考えなくてはいけません。
冤罪については、1人でも大問題であると思います。
ただ、泣き寝入りする被害者についても、1人でもいたら大問題です。
冤罪は2%ほどで、女性が巻き込まれる犯罪を年間10万件とすると、2000件くらいになります。
少なくない人数ですが、ただ単に冤罪を怖がって被害者供述が軽視されるようなことがあれば、9万8000件の被害者が泣き寝入りする可能性が出てきます。
それでは被害者が増えるだけで、本末転倒です。
男性の中には勘違いしている人がいるかもしれませんが、多くの女性は、男性が冤罪でもいいとは思っていません。
ある日、自分の旦那や恋人や息子が冤罪事件に巻き込まれたらどうしよう…という不安を持っています。
セクハラなどを含めれば、性的被害を受けたことの無い女性はいないと思います。
自覚の問題こそあれ、かなりの確率で性犯罪に巻き込まれた経験があると思います。
私でさえ学生自体は痴漢にあっていましたし。
それでも、男性が苦しむ分にはどうでもいいわなんて思っていないわけです。
当事者意識があるということであり、男性パートナーの有無は重要ではありませんが、要は、多くの女性は、被害者感情もわかるし、冤罪被害者の気持ちも分かっているということです。
男性=犯罪者ではありませんから当たり前ですが、冤罪事件を問題視する男性達も、ちゃんと被害者のことを考慮してくれているといいなと思います。
最後に、性犯罪の加害者は98%が男性です。
「セクハラ」「浮気」の男女差は社会的役割の違いから生まれるものだと思います。
実際、女性の社会進出が進むにつれ、女性の浮気率は上昇しています。
しかし、セクハラ以上の性犯罪については、男女の役割が変化してもあまり変化がありません。
肉体差や身体機能の違いがあるので、変化しにくい部分なのだと思います。
性犯罪は、今のところ男性特有の犯罪だと言ってもいいくらい、加害者は男性が多いですから、それを踏まえた上で男女平等とは何かを考えていかなくてはいけないと思います。