上の記事は少し前のものですが、最近は児童虐待のニュースが上がってくると、
「虐待は減っている。取り上げられる量が増えただけ」
という意見をよく見かけます。
本当のところはどうなのか調べてみました。
子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について 第 10 次報告
児童虐待及び福祉犯の(平成26年1~12月)警察庁生活安全局少年課検挙状況 H27
第2節 犯罪や虐待による被害|平成27年版子ども・若者白書(全体版) - 内閣府
児童虐待相談件数(対応件数)
相談・対応段階は急増していて、速報値では8万件を越えます。
被害者年齢は小学生以上、相談内容は心的虐待などが増えているようです。
通報者は「隣人・知人」が多いですが、近年は「家族」も増えています。
加害者は「実母」30代が多いですが、男性の育児参加率が上がるにつれ父親側の虐待数も増えてきているので、父母の差は育児参加率によるものと考えられます。
加害者年齢は子供の年齢との関係で中央値に近くなっているのだと思います。
この段階では、主観的な相談も含まれるため、緊急性が一律ではありません。
傾向サインとしては無視できませんが、件数が社会状況の裏付けになっているとは限りません。
警察が検挙した児童虐待事件
▼罪状別の検挙件数推移の傾向
▼罪状別の検挙件数推移の詳細
検挙件数も増加していますが、この段階は緊急性が高いです。
相談・対応件数に比べ、加害者は父親側が多く、性的虐待が増えています。
また、虐待死は5歳未満の低年齢で多いですが、全体的には年齢が上がるにつれ女児被害者数が増えます。
児童虐待での死亡件数
▼被害児童数(青線)と0~14歳の人口数(緑線)の推移
一見すると死亡数は減っていますが、平成18~20年(2006~2008年)にかけて増えたと捉える方が正確です。
この時期に増えた理由は、2003年前後に生産人口数が増えたからだと思います。
死亡に至るケースでは、子供年齢が5歳未満が多いので、2003年に生産人口であった人達が子供を産んで統計に反映される場合、2006~2008年に検挙数が増えることになります。
人口推移と比較すると、死亡数は割合としてはあまり変化していません。
■子どもの養育機関・教育機関等の所属
虐待死|なし 80.6% :あり 8.3%
心中(未遂含む)|なし 27.3%:あり 69.7%
■子どもの施設等への入所経験
虐待死|なし 88.9%:あり 2.8%
心中(未遂含む)|なし 87.9%:あり 6.1%
■祖父母との同居
虐待死|なし 83.3%:あり 11.1%
心中|なし 77.8%:あり 22.2%
■実父母、祖父母以外の者との同居の状況
虐待死|なし 61.1%:あり 27.8%
心中|なし 81.5%:あり 7.4%
死亡に至るケースでは被害者年齢が低いため、加害者年齢は20代が多くなります。
虐待死の加害者は母親側が多いですが、その約半数が出産直後に行われていて、「0日児事例」と関連する部分があります。
1歳未満の被害者数が多いのはそのためで、その分を差し引くと他と同じくらいです。
虐待の原因・動機は、「育児不安」「養育能力の低さ」「衝動的」などが主ですが、死亡に至るケースでは「望まない妊娠であった」というのが約半数を占めます。
生活保護世帯は心中で0、虐待死13.9%で、一般割合よりは多いですが、目立って多いというほどではありません。
それよりも同居率が低いのに収入源「不明」の割合が多くて気になります。
児童の障がいの有無についても、虐待死で5人、重症のケースでは1~2人と、多くありません。
加害者の精神疾患については、心中では半々ですが、虐待死では一般と同じくらいの割合なので、直接的な原因にはなっていないようです。
また、親戚等とのトラブルを抱えている人も多くありません。
他に注目すべき点としては、死亡に至るケースでは児相の関与率が低いことです。
これは児相が仕事をしているというより、相談・対応事例は増え続けているが重度のケースはその中に含まれないことが多い(発覚が難しい)ということだと思います。
0日児事例
事 例のほとんどが、「母子健康手帳の未発行」や「妊婦健康診査の未受診」 (11 事例中 10 事例)であった。 「望まない妊娠」など妊娠について悩みを抱え、支援が必要な場合、 妊婦自身のおかれている孤立した状況を丁寧に受け止めながら、妊娠 20 から出産に至るまで、切れ目のない相談・支援が行える体制を整備す るとともに、それら、いつでも相談できる窓口があることを周知する ことが重要である。
第2節 犯罪や虐待による被害|平成25年版子ども・若者白書(全体版) - 内閣府
子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第11次報告)の概要
統計の解釈
端的にいえば、虐待は増えています。
特に、父親側による暴行・傷害・性的虐待は無視できない増加数です。
心的虐待などは表面化した部分だと考えられますし、心象的として暴力が昔より多いとは思えませんが、近年になっても検挙数は増加の一途なので、やはり問題視はすべきだと思います。
ただ、本当は虐待死と出産直後の遺棄は分けて考えた方が良いと思います。
遺棄で児相の関与率が低いのは、出産直後の遺棄が半数を占めているからで、このケースは、暴行を加えて死なせてしまったわけでなく、望まない妊娠であったから出産直後に赤ちゃんを捨てたというものです。
無職で健診にも行かない母親が自宅のトイレで出産して遺棄する、という流れの中で、第三者が関与していくのは簡単ではありません。
家族が妊娠に気づいたとしても、健診や遺棄は把握しにくいです。
このケースについては、国や自治体が直接できることは限られているわけですが、何もできないというわけではありません。
「望まない妊娠であった」ことが根本原因にあるとすれば、中絶をしやすくするか、親権放棄をしやすくすれば良いわけです。
特に母親の年齢が若い場合、中絶費用や福祉の不足が大きな負担になっている可能性があります。
とはいえ倫理的問題が多分に含まれているので、その方法については別に考えます。
虐待の原因と解決策
虐待は事情が色々なので一概には言えませんが、実しやかな作り話を優先的に議論するのもどうかと思います。
代表的なのは、「養・継父は愛情を持てないから虐待に至り易い」という説です。
虐待をする人は、子供がいなければ女性を殴ります。
女性でなければ親、親でなければ外部の弱者、またその全員に対してなど、自分にとって攻撃しやすい相手を順に票的にしているだけです。
虐待は、関係性によって起こるのではなく、加害者に問題があるから起こるので、血や愛はこじ付けです。
十分に愛されて育ったロクデナシもいますし、愛が無くてもきちんと養育の義務を果たしている人もいます。
養・継父による事例は人口割合としては多いですが、夫婦の力バランスの歪みが虐待という形で現れていることがあるのではないかと思います。
母親「自分も暴力を受けた」3歳男児暴行死(日本テレビ系(NNN)) - Yahoo!ニュース
足立区の皆川忍・朋美らを虐待殺人で逮捕 3歳男児をうさぎ用ケージに閉じ込め虐待、川に流す | 軍荼利
3歳の娘を虐待した女 理由は「元夫に似ていてムカつく」 - ライブドアニュース
3歳児虐待死 食事も不十分、押し入れにロープ用の金具も ― スポニチ Sponichi Annex 社会
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虐待は動機も加害者も色々ですが、共通する部分もあります。
1つは、大半の虐待で母親は虐待が行われていたことを知っている点で、もう1つは、父親が主な虐待者である場合は家などの密室で行われていることが多い点です。
私も街中やショッピングセンターで、子供の体が宙に浮くほど振り回して激怒している親を見かけたことがありますが、そこまでのものは母親が行っているのしか見たことありません。
私の目撃例はたまたまかもしれませんが、男性が暴力をふるっていれば直ぐに通報されますが、女性が加害者の場合は様子を見ようと考える人が多いため、エスカレートするケースがあるということではないかと想像します。
母親が加害者の場合もあれば、見て見ぬフリをしたり加担したりと色んなパターンがあわるわけですが、出産直後の遺棄を除くと、育児が閉鎖的な関係の中で行われていることが共通する原因だと思うので、児相などの第三者が関わっていくしかないかなと思います。
ただ、母親もDV被害者である場合、外に相談しませんし、加害者を庇うので発覚しにくいです。
パートナーや恋人からの暴力に悩んでいませんか。一人で悩まずお近くの相談窓口に相談を。:政府広報オンライン
夫婦間での犯罪は年間5417件で、児童虐待に10倍ほどになっています。
表に出るのは一部で、潜在数が10倍なら5万件以上になります。
婚歴のある女性で、配偶者などから「何度も暴力を受けた人」は9.7%です。
子あり世帯が3500万世帯で、内半分が女性でその約10%だと、175万人です。
検挙者は最大でも120人(175万人の内)なので、むしろ耐えている気がします。
DVを発端とした虐待のエスカレートがあるとすれば、まず夫婦間の問題を解決する必要があります。
検挙に至る虐待では76%の加害者が父親側なので、夫婦の力バランスを正常化して、母親が虐待に対処できるようになることが、虐待を減らすことに繋がるのではないかと思います。
平成 26 年中のストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等の対応状況について
配偶者DVの認知件数と検挙件数は共に急増しています。
■配偶者と別れなかった理由
「子どもがいるから、子どものことを考えたか ら」136
「経済的な不安があったから」77
■子どもが原因で別れなかった理由
「子どもにこれ以上余計な不安や心配をさせたくないから」53
「子どもをひとり親にしたくなかったから」44
上記は多いものを抜粋しましたが、他の項目では、「仕返しが怖かった」「相談しても無駄だと思った」など、制度に対する不信感も目立ちます。
基本的には、DVシェルターや保護施設で支援してもらうのが良いと思いますが、それだけでは根本解決になりません。
目的に対して暴力が手段として成立してしまっているので、DVが認められた場合には、加害者が同じ手段を使わないように拘束(懲役刑)すべきだと思います。
また、母親の心理として「子どもをひとり親にしたくなかった」と思う気持ちはよく分かりますが、たとえば父親が暴力をふるっている場合、子供から父親を奪うのは暴力を振った父親自身です。
行為を選択しているのは母親ではないので、母親がどんなに我慢しても、父親は子供から父親を奪うために行動します。
人は変わりますが、キッカケが必要で、キッカケというのは環境を変えることです。
2度続けば故意の可能性が生まれますし、3度続けば虐待の蓋然性が認められますから、通報を躊躇わない方が良いと思います。
また、父親側の虐待では性的虐待も多いです。
被害者年齢が上がるほど女児数で顕著な増加がみられるのは、そのためではないかと思います。
父親側による性的虐待の被害者は17歳以下で多くなっていて、想像よりも強姦や強制わいせつといった重度の性犯罪が多いです。
発見までの期間が長いことも特徴で、平均は2年半です。
13歳くらいで一気に被害者数が増えることから、逆算すると10歳くらいから始まるケースが多いのかもしれません。
早いと10歳くらいに初潮を迎えるので、女性の場合、丁度その頃に体つきなどに変化が起こり始めます。
子供のその後の人生を考えた時、虐待はどんなもので大きな傷となって残りますが、特に性的虐待は取り返しのつかない類のものです。
抑止としての厳罰化は必要だと思います。
世論
少年犯罪やシングル家庭、生活保護や虐待、イジメや性犯罪など、繊細且つ専門組織でないと対処し辛い問題は、世間で過小評価される傾向があります。
「実はそんなに悪い状況ではない」「犯人は逃げ切れないから大丈夫」
「○○した奴が悪い(○○しなければ問題は起こらない)」
そういった解釈は耳障りな事件でも見かけますが、自身への免罪符であったり、恐怖心や世論の加熱を抑えたいという思いがあるのかなと感じます。
でも、過小評価しても事実は変わりませんから、世間が関わり難くなることで、水面下で問題が悪化してしまうことがあります。
事実の共有は公正な民主主義(真理追求)において必要不可欠なものなので、事実か否かはきちんと区別して受け止めた方が良いと思います。
事実無根の炎上は困りますが、炎上が問題になるのは犯人追求を行うからです。
誰が悪者か、誰に責任があるか、誰が罰を受けるべきか、という部分だけを抽出して語ると、それこそ魔女狩りのようなことが起こります。
でも、魔女狩りを行ってしまう可能性は双方にあるので、一方を断罪するための台詞として用いるのは適切でないと思います。
解決策を議論するようになっても諍い自体はなくなりませんが、間違った説だけが独り歩きすることも少なくなります。
私達がニュースを見聞きするのは、続く被害を減らすためなので、解決策を議論しないと情報を共有している意義が薄れます。
減っているなら何が影響しているのか、増えているならどう対処したら良いか、ということを分析して議論していけたら、炎上も理解を深める現象として意義を得るのかなと思います。
第2節 犯罪や虐待による被害|平成25年版子ども・若者白書(全体版) - 内閣府
子ども虐待による死亡事例等の検証結果(第11次報告の概要)及び児童相談所での児童虐待相談対応件数等 |報道発表資料|厚生労働省
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